【観劇記録】Difiled
Difiled
於:DDD青山クロスシアター
客席中央〜後方 下手側
舞台機構
平面舞台。段無し。奥と横舞台三方にグレーの大きな書架。中の本もグレー。
ヘリンボーン木目の床。クラシカルなデスク、白電話、旧型のPC(Win2000が搭載されてそうな)
中央にブラウンのこれまたクラシカルな目録カード入れ。
照明はシンプル。パトライトと赤と地明かり2〜3色以外に色は使わず。
音響もオープニング・エンディングと必要最小限のSEのみ。至ってシンプル。
あらすじ
ハリー・メンデルソン = 歴史ある図書館に立てこもった男。
ブライアン・ディッキー = 説得にあたる定年間際の老練刑事。
ハリー・メンデルソン、図書館員。自分の勤める図書館の目録カードが破棄され、コンピュータの検索システムに変わることに反対し、
建物を爆破すると立てこもる。
目まぐるしく変化する時代の波に乗れない男たちが、かたくなに守り続けていたもの。神聖なもの。
それさえも取り上げられてしまったら・・・。
交渉にやってきたベテラン刑事、ブライアン・ディッキー。緊迫した空気の中、巧みな会話で心を開かせようとする交渉人。拒絶する男。
次第に明らかになる男の深層心理。危険な状況下、二人の間に芽生える奇妙な関係。
果たして、刑事は説得に成功するのかー。
感想
過剰すぎず、感を押さえた演出。
そして濃密な2人の掛け合い。
緩急のテンポ良し。
最初はかなり勝村さんのペースだったけど、中盤以降の戸塚くんの追い上げがすごい。
演出が本当にバチコーン好みのど真ん中だったので、ストレスなく見られたのがすごい良かった。
各キャラクターについて
ハリー・・・一言でいうとオタク。1質問すると聞かれていないのに
バックグラウンド込みで100返す。
おそらく承認欲求は非常に高い。プライドも高い。コミュニケーションは得意ではない。
古きものを愛し変わりゆくものに拒否反応を示す。
ブライアン・・・登場からかなりのポンコツ具合だが、
恐らくそれは隙を見せることで相手の緊張を緩めるためのフェイク。
隙だらけの姿を見せながら、慎重に注意深く相手の出方を伺っている。
交渉における経験と実力はかなりのものであると伺える。
特に印象深かったのは、カミさんのコーヒーを勧めるくだり。
以前何かの本で読んだことがあるのだが、金融系企業でのクレーム対応(対面)の際、
企業側はお客様に常温のジュースをだすのだそうだ。
熱すぎず、冷たすぎないちょうどいい温度の飲み物を出すことで、
相手の神経を刺激しすぎず交渉に移ることができるのだとか。
この話の真偽のほどは定かではないが、この劇中でもブライアンはハリーへコーヒーを勧めている。
朝にカミさんが入れてくれた"熱すぎず、冷め切ってもいない"ちょうどいい温度のコーヒー。
この事からしてもブライアンが単なるポンコツ中年刑事とは思えないのだ。
ハリーにおける"Difiled=聖域"とは何か考えてみる。
冒頭のシーン、照明が落とされた場内で、ハリーは黙々と爆弾を仕掛けていく。
その姿はまるで、宝物を隠す少年のようだ。
少し高い所に設置する時、彼は止む得ず目録カード入れを踏み台にする。
靴を脱ぎ、そっと静かに登る姿はカードそのものを愛しんでいるように思えた。
だが物語の中盤、ハリーは興奮の余り目録カード入れの上に立ち熱弁をふるう。
土足で、踏みつけるように。
このシーンを見て違和感を感じた。
カードを愛し守るはずの彼がなぜそこまで粗雑に扱うのか。
考えた末、ハリーが守りたいのはカードそのものではないのではないかと考えた。
目録カードの保護はもちろん大事だけど、一番守りたいものは自身のアイデンティティー、
つまりは自分自身ではないか。
ハリーの主張からはしばしば自身がマイノリティー側の立場に立たされていたことが伺える。
人種、宗教もそうだし集団生活での立ち位置もしかり。
そうなれば、自分自身を守るには自己の価値観を肯定する他ないのだ。
自身の価値観を第一に考え信条としている彼が変わりゆくものを認める事は言わばそれまでの自分の否定である。
そんな中自分自身をまず否定せず受け入れてくれたブライアンはハリーにとって最後の理解者だったのかもしれない。
そんなハリーがたまらなく愛しく、そしてその最期はたまらなく切ない。
その他
宗教と政治は初対面の相手にする話題としてタブーとよく言われるが、2人の距離が縮まり
魂の応酬が始まった要因がこの二つのトピックであるのが興味深い。
宗教、人種問題*1テクノロジーの進化、同性愛、マチスモ思想、スクールカースト、そしてイラク戦争。
こう書き出してみると、あぁ、当時のアメリカではこんなジレンマを抱えていたのかと興味深い。
*1:白色人種のなかで、というのがまたなんとも